昔、僕がまだ神戸で雇われバーテンダーだった頃の話。
その店はビルの地下にあった。
地下にはうちの店しか無いのだが、階段の途中にセンサーが付いていて人が通るとカウンターの中のフラッシュが光り、お客さんが来たのがわかる仕組みになっていた。
でもたまに、フラッシュが光っても誰も入って来なくて、外を見ても誰も居ないって事があって、僕は寂しがり屋の幽霊でも 来たのかな?と半分冗談みたいにウィスキーを1ショットカウンターの隅の席に置いて「ごゆっくりどうぞ~」と言っていた。
それから、それがおまじないと言うか、ゲン担ぎみたいになり、そういう事があるといつもそれをしていた。
そのうちお客さんも「お、今日も来てるね」みたいな感じになり(その日に限って店は忙しくなった)姿は見えないけど、その頃は店の常連さんみたいに思っていた。
ある冬の朝方、フラッシュが光ったんでこんな遅くにお客さんかと思って外を見ると誰も居ない。
なんかそのまま朝の空気が心地よかったので階段の上まで昇って一服していたら突然の大地震。
うちのビルは地下と一階部分がぺちゃんこ。あのまま中に居たら確実に死んでいた。
後から考えると、あの見えない常連さんが助けてくれたのかなと思う。
今は違う場所で自分でお店をやっていて、その店のスィングドアが風も無いのにギギィと揺れたりすると、今でもカウンターの隅の席にウィスキーを1ショット置くようにしている。
「いらっしゃいませ、あの時はありがとうございました」と心の中で思いながら。
昨日のニュースを見ていて思い出した話。